喉仏(のどぼとけ)を英語で「アダムのリンゴ(Adam’s apple)」と言うけれど、なぜ?

喉仏(のどぼとけ)を英語で Adam’s apple と言います。日本語に直訳すると、「アダムのりんご」でしょうか。

なぜ、のど仏を「アダムのリンゴ」と言うのでしょうか。「アダム」と聞いて「アダムとイブ」を連想した人は鋭いですね。

そうです。Adam’s apple は聖書に関係しているのです。

アダムのリンゴは「禁断の果実」

「禁断の果実」という言葉は聞いたことありますよね。

「禁断の果実」は、一般に「欲しいと思っても、手にしてはいけないもの」を意味します。

関係を持ってはいけない異性との恋などを「禁断の果実」と言ったりすることもあるようです。

この「禁断の果実」、「禁断の木の実」とも呼ばれたりしますが、これは聖書から来ています。

元々の英語では forbidden fruit と言います。

forbidden が「禁じられた」という意味ですから、そのままの訳ですね。

forbidden fruit は聖書に書かれていない?

驚くことに、forbidden fruit という文言は、実は聖書に出てこないのです。

ただ、forbidden fruit という用語自体は聖書に出てこないのですが、そのことを示す文章が「旧約聖書」の「創世記(Genesis)」に出てきます。

その文章を引用してみましょう。

“But of the tree of the knowledge of good and evil, thou shalt not eat of it: for in the day that thou eatest thereof thou shalt surely die.” (Genesis 2:17 KJV)

この句では「善悪の知識の木(the tree of the knowledge of good and evil)」から実を取って食べてはいけない。食べると必ず死ぬだろう、と神が人間に警告しています。

つまり、神が食べることを禁じているから、「forbidden(禁断の)fruit」ということですね。

ですが、アダムとイブは、蛇(serpent)にそそのかされて、神の教えに背きこの果実を食べてしまうのですね。

そして、哀れアダムとイブはエデンから追放されてしまう、というのはよく知られているとおりです。

この禁断の果実というのが「リンゴ」だと信じられており、アダムがこのリンゴを飲み込もうとしたときに、のどにつっかえたために喉仏ができた、というのが Adam’s apple の語源のようです。

…ンガググ!

「禁断の果実」はリンゴではない?

このように、Adam’s apple の語源ともなった forbidden fruit ですが、実は、この forbidden fruit が「リンゴ」であることを示す記述は、聖書のどこを探してもないそうです。

これも驚きですね。forbidden fruit の文言自体が聖書に記載されておらず、forbidden fruit が「リンゴ」であることを示す記述も聖書に存在しない、ということなのですから。

上述の通り、「善悪の知識の木」という記述はあるのですが、apple もしくは apple を示唆する記述はどこにもないのです。

一説によると、最初に「禁断の果実」が「リンゴ」とされたのは、ジョン・ミルトンが1667年に書いた『失楽園(Paradise Lost)』なのだそう。

また、昔から、西洋ではリンゴ自体が魔力を持つ果実だと見なされていたらしく、リンゴ=「禁断の果実」という図式が成り立ちやすかったとか。

そのほか、ドイツの画家・アルブレヒト・デューラーが1507年に描いた『アダムとイヴ』という絵画にも、リンゴが描かれています。ミルトンが『失楽園』を書く100年以上も前ですね。

このように、「リンゴ=禁断の果実」という図式には、その起源について諸説あるようですが、どうやら聖書時代以降の後世の人々の勝手な想像によるものが大きい、ということが言えそうですね。