イギリスでは、dinner jacket と呼ばれる礼服があります。「ディナー・ジャケット」と発音します。
dinner は「夕食」、jacket は「上着」という意味ですので、dinner jacket は文字通りに解釈すれば「夕食に着る上着」という意味になりそうですが、どういう礼服か分かりますか。
日本では「ディナージャケット」という言葉が使われることは少ないかもしれません。
では、「タキシード」という言葉はどうでしょうか。この言葉はよく耳にすることと思われます。英語の tuxedo から来ています。
実は、dinner jacket と tuxedo は、同じ礼服を指します。
dinner jacket は「タキシード」のイギリスでの言い方
結論から言えば、dinner jacket は主にイギリスで使われる用語で、tuxedo は主にアメリカで使われる用語ですが、同じ礼服を指します。
では、なぜイギリスとアメリカで、同じ礼服を指すために異なる言葉が使われるようになったのでしょうか。
dinner jacket の歴史
dinner jacket は、イギリスで生まれた「スモーキングジャケット(smoking jacket)」を原型として生まれました。燕尾服に次ぐ略式の礼服という位置づけでした。
なぜ「スモーキングジャケット」なのかと言えば、簡単に言うと、タバコを吸いながら歓談する際に着られた礼服だからです。太ももくらいまでの長さで、燕尾服のような尾がありませんでした。
「スモーキングジャケット」が誕生してから、欧州の国々では尾の無い燕尾服のことを「スモーキング」と呼ぶようになります。スペイン語では、smoking の音から派生した esmoquin(エスモキン)が「タキシード」を意味します。
そして、この「スモーキングジャケット」を基にしてできたのが dinner jacket (ディナー・ジャケット)というわけです。
tuxedo の由来・語源は?
「タキシード」の名前の由来は、「タキシード・パーク(Tuxedo Park)」という説があります。
「タキシードパーク」は、1880年頃にニューヨーク北部にあった富裕層向けの土地のことを指します。
ここで行われたパーティーで、「タキシードパーク」コミュニティの創設者の一人の御曹司であるグリズウォルド・ロリラード(Griswold Lorillard)が「尾の無いドレスコート(つまりスモーキング)」を着ていたことが「タキシード」の名前の由来ということです。
dinner jacket も tuxedo も、そもそも「スモーキングジャケット」を原型として生まれたことが分かります。
そして、燕尾服があまり着られなくなった近代において、dinner jacket も tuxedo も礼服として使われるようになったというのは興味深いですね。
ちなみに、燕尾服は、日本でも国の格調高い式典などにおいて、皇室や政治家の方が着ているのを見ることがあります。